ユーラシアの近代と新しい世界史叙述

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【報告】11月23日、24日:国際会議「グローバルな消費・再流通・再受容の歴史:循環し共有されてきたものをめぐって」

2013年12月11日

    2013年11月23日(土・祝)と24日(日)、国際会議「グローバルな消20131123Haneda.JPG費・再流通・再受容の歴史:循環し共有されてきたものをめぐって」が東京大学東洋文化研究所で開催された。

これはグローバルな消費史を描くことをめざし、循環や連関といった側面を中心に考察する会議として、2012年2月の「セカンドハンドの世界史―古着の再利用と流通をめぐって」に次ぐ二度目の集まりであった。二日間で四つのセッションが開かれ、いずれにおいても活発な議論が行われた。 

 

 11月23日

 セッションⅠ 世界飲料としての茶とコーヒー 20131123Sugiura3.JPG

 

 第一日目の第一セッションでは、消費史の中でもとくにグローバルなやりとりが注目されてきた商品として、茶とコーヒーが取り上げられた。

 

 

 

 

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 最初の報告である森永貴子氏の「ロシアの観点からみた茶文化」は、ヨーロッパ型とアジア型の茶文化のはざまに位置したロシアで、いかにして、またどのような文化的展開があったのかを明らかにするものであった。森永氏によると、ロシアに茶が入ったのは17世紀前半、モンゴル人を経由してであったが、茶文化が発達したのは18世紀以降であり、それはヨーロッパ型のものであった。後に茶が上流階層から下層に浸透していく過程で、ロシアの茶文化は多様化し、ヨーロッパ型とも異なるものとなっていったという。報告に対しフロアからは、「ヨーロッパ型」「アジア型」という分類がはらむ問題などが指摘された。

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 続く太田啓子氏の「1700年以前の「世界飲料」としてのコーヒー」は、植民地でのコーヒー栽培が始まる前、イエメンやエチオピアなど限られた地域で栽培されていたコーヒーが、「グローバルな飲み物」となりえた理由を問うものであった。太田氏は、15世紀から17世紀のアラビア語・ヨーロッパ諸語の史料から、コーヒーの飲用がイエメンの高地からメッカやカイロ、イスタンブル、そしてヨーロッパ諸都市に伝わった経路や経緯を明らかにし、その背後に、インド洋商人によって確立されていた交易ネットワークがあったことを指摘した。フロアからは「グローバル」という言葉の含意をめぐる質問やコメントがあがった。

 

 

セッションⅡ インド洋海域の布衣服の循環:グローバルな供給とローカルな流通のはざまで 

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 第二セッションは、グローバルな循環の中で生み出される衣服に着目するものである。

 ビヴァリー・ルミア氏の「ズボンの問い:水夫、男性性、帝国のイギリス男性服の変容1600-1800」は、半ズボン(Breeches)に代わり、ズボン(Trousers)がイギリスのあらゆる社会階層の衣服として浸透した経緯と背景を明らかにするものであった。ルミア氏は水夫のズボンに着目し、それが、(1)当時の新しい生産過程(既製品としての大量生産)を経たものであったこと、また、(2)海路開拓とその利用規模の拡大をはかっていた帝国で、「男性性」の象徴となっていたことを指摘した。質疑では、コメンテーターの眞嶋氏らより、イギリス以外の地域での同様の動きの背景や、植民地の状況についての問いがなされた。20131123Majima.JPG

 

 

20131123Fee1.JPGサラ・フィー氏の「1822-1868年頃のマダカスカルにおける「変化の科学技術」としての布と衣服」は、マダガスカル内陸部メリナで伝統的な巻衣に代わり、縫製された衣服(ヨーロッパ型の衣服)が導入された過程を明らかにするものであった。フィー氏はそれに関わった二人の支配者、ラダマ王と女王ラナヴァルナ2世に着目し、両者の治世下に衣服や縫製技術が導入され、王や官僚の特権化のために用いられた様を描き出した。フロアからは他地域の「洋装化」との比較や、ヨーロッパ型の衣服の現地における変化に関する質問があがった。

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金谷美和氏の「織物のグローバライゼーション:日本におけるアフリカ市場向けプリント生地のサンプル帳調査から」は、織物を題材にグローバルな繫がりを描き出すものであった。19世紀以来、東西アフリカではジャワやインドの織物を起源とする生地が使用されてきたが、その生産や流通は、当初ヨーロッパの、後に日本やその他地域の企業によって担われた。金谷氏は1940-80年代の日本のサンプル帳をめぐる調査の概要を紹介し、その中で明らかになった織物の名称をめぐる問題に言及した。質疑では、織物のデザインや技術が伝播した経緯などが問われた。

(文責:後藤絵美)

  

11月24日

セカンドハンド国際会議二日目となる24日は、セッションⅢ「18,19世紀の美術品と骨董品における受容と循環―世界史的視野を求めて」、セッションⅣ「今後のプロジェクト展開について」、Ⅴ全体討論が開催された。

セッション   1819世紀の美術品と骨董品における受容と循環世界史的視野を求めて20131124Ukai1.JPG

 セッションⅢは杉浦未樹氏(法政大学)が司会を務め、最初の報告者、鵜飼敦子氏(東京大学)は「グローバルな物質文化としての「ジャポニスム」的美術工芸品」と題する発表を行った。鵜飼氏はナンシー市立図書館の装丁本の事例を通して、モノや知識の流通と伝播がハイブリッドなグローバルな物質文化として展開していったことを示し、ジャポニスム研究や美術史という学問的枠組みに疑問を投げかけた。フロアからは、アンティークという概念についての質問があった。20131124Teramoto.JPG

 

 

 

報告を受けて寺本敬子氏(一ツ橋大学)は、グローバルな視点に立った考察の重要性を説いた上で、実際に国家という枠組みが成立した事実とその過程も看過すべきではないという立場からコメントした。1867年のパリ万博への日本の参加を事例として挙げ、日本の文化的イメージが他のアジア諸国から区別されたものとして確立されていったことを説明した。

 

20131124North1.JPG 続いて、二人目の報告者であるミヒャエル・ノース氏(グライフスヴァルト大学)は、「インド洋におけるヨーロッパと中国美術品:17,18世紀の文化交差」と題した発表の中で、バタヴィアに居住した異なる人種の家庭にみられる室内装飾の特徴について多角的に分析した。ノース氏によると、ヨーロッパや東アジアからバタヴィアへ移住した人々は、注文や市場での販売を通して美術品を入手しており、中古品の売買は家屋敷のオークションを通して促進されたという。20131124Aoki.JPG

 

 

 コメンテーターである青野純子氏(九州大学)は、ノース氏の報告に対し、人々に共有された美術品には共通の嗜好が見出せるのか、中古品の市場はどのように機能していたのか、という二つの問いに答えながらコメントした。また、バタヴィアでオランダ絵画が積極的に受容された理由として、小さく運びやすく、宗教的モチーフが少ないという特徴を挙げた。

質疑では、人々がある美術品を入手したいと希望し購入に至るまでの経緯、オークションにおける落札見積価格についてなど、具体的な質問が多数寄せられた。

 

20131124Alexandra.JPG 三番目の報告者アレクサンドラ・パーマー氏(王立オンタリオ美術館)は、リメイクされ、形を変えながら着用されてきた18世紀衣装について、王立オンタリオ美術館の所蔵品の調査を基に報告した(「18世紀を超える18世紀衣装」)。作り変えられた衣装と再利用された布地の分析を通して、パーマー氏の発表は世紀を超えて活用される衣服の歴史を立体的に描き、スタイルの「進化」を時系列に説明してきたファッション史や、作品の原型を重んじてきた美術館のあり方に一石を投じた。20131124Suzuki.JPGのサムネール画像

 

 

 

 

コメンテーターの鈴木桂子氏(立命館大学)は、考察の理論的枠組みと、広義の文脈における衣類の文化について人類学的視点から指摘した。鈴木氏は先ず、アブ=ルゴッドの提唱した個別的なもののエスノグラフィー(ethnographies of the particular)という見方に基づいて、モノにまつわる背景を個別に考察していくことの重要性に言及した。次に、1880年代にハワイに住んだ日本人の間で米袋から衣服が作られた例などを挙げ、一般の人々にとって布地が貴重であったことを示した。

鈴木氏が司会を務めたセッションⅢの全体討論は、美術品を含むモノの分類についての議論から始まった。また、ヴィンテージやアンティークという言葉のもつニュアンスが美術品と衣類では異なるという点や、流通の背景としてナショナリズムの高揚がみられたのではないかという指摘があった。また、フロアを交えて、モノの受容を促進したであろう人々の願望(desire)について読み取ることが可能か議論された。

 

セッションⅣ今後のプロジェクト展開について

20131124Sugiura.JPGセッションⅣでは先ず、杉浦未樹氏(法政大学)が今後のプロジェクト展開について構想を発表した(「『布・衣・服のグローバルな移転・連関と循環』の歴史プラットフォームプロジェクト」の概要と計画)。杉浦氏は、プロジェクトが今後扱うテーマとその可能性を論じ、ハイブリッドな性質に加えて多様化と標準化という両側面をもつグローバルな物質文化の歴史を描くための方法を提示した。

 

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続いて、角田奈歩氏(日本学術振興会特別研究員)は今後計画されているデータベースの共有について、その重要性と克服すべき課題を具体的に明らかにした(データベース共有の研究上の意義:18~19世紀パリの服飾品小売を巡るデータ例から)。紹介された事例は、服飾品小売に関するデータと地図作成ソフトを活用し、パリがファッションの中心地になるまでの過程を地形学的に示した。

 

最後の全体討議では、布・衣・服というプロジェクトの主題を巡って、その将来的可能性と問題点がそれぞれ指摘された。焦点を絞り込みつつも、包括的な議論の場としてプロジェクトが展開していくことが期待される。また、セカンドハンドという言葉の持つ意味や、英語表現と日本語表現のニュアンスの違いについても度々確認がなされ、国際会議ならではの議論が交わされた。

(文責:寺田 悠紀)

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